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ここ最近、突然、そして急激に村上春樹中毒になっています。

かつて二大ムラカミが新星のごとく現れ、文学界を大いに賑わせていたころ、
私は完全にリュウ派の読者でした(リュウ氏は、私が当時かなり影響を受けた作家の
一人なので、ハルキ氏の比較対象として挙げるのには違和感があるほどなのですが)。
ハルキに関していえば、まず「ノルウェイの森」がどうしても好きになれず(彼の描く
女の人がまったく好きになれず)、続いて読んだ「ダンス・ダンス・ダンス」は
あまり面白く感じられず、結局それ以来、しばらく彼の作品を読むことはありませんでした。
正確には、ハルキ好きの友達に借りて短編を読んでみたり、エッセイを読んでみたりと、
時々つまみ食いみたいに彼の作品に触れることはあったけれど、
そして、そのどれもがそれなりに面白かったように記憶しているけれど、
なんというか、たとえばロックバンドのオアシスはものすごく人気だけど、
私はあまり興味がもてないっていうのと同じような感じで、
いいとは思うけど、世間が手放しで賞賛する理由がいまひとつわからない。
と、私の中ではそんな感じの位置にとどまっていたわけです(もちろん、私自身が
若かったというのも大きいでしょう、いま思えばね)。

でも数年前(日本にいた頃)、何か突然ハルキでも読んでみよっかな。なんて気分になり、
再び友達に借りてみたりして、ちらほら読んでみたことがありました。
そうしたら、前よりは少し自分の中で面白味が増していたけれど、
でもハマるってほどではなかった。で、ちょうどその頃、友達が、
「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」の(上)だけが家にあったから、
よかったらあげるよ、と言って文庫をくれたので、それを読んでみたところ
初めて心底「おもしろーい!」と思ったんだけど、そのとき下巻は手元になく、
そのうちブックオフかなんかで買おう、なんて思っているうちに、
そのままになってしまった、という宙ぶらりんなカンケイだったのでした。

それが、少し前に会社のマユミさんのご友人宅の帰国売りに行った時、
ハルキの本が割とあったので、もらえるだけもらってきて(そのなかには
「世界の終り~」の上下巻もあり、もちろんもらってきました)、
先日ふと「ねじまき鳥クロニクル」を読み始めてしまったら、
これがもう、どうしようもなくビンゴだった。
一字一句とは言わないまでも、かなり広範囲にわたって
このところ私が心の中のわだかまりとして抱えていることや、
常日頃ぼんやりと考えたり、ふとしたときに脳裏をかすめるようなこと(というより感情)が、
かなり正確に、自分以外の人の言葉で表現されている!!!
と、驚嘆してしまい、読みながら気づけば涙。たびたび号泣。ひー。

続いて「スプートニクの恋人」を読んだら、これまたことごとく心に響いてしまい、
なにか、ものすごく考え方が似た友達に会ったような気分に。
彼の小説は、展開が少し突飛だったり、夢と現実の狭間みたいだったり、
また登場人物がエキセントリックだったりして、不思議な感じがすることが多いんだけど、
でも、言ってることはとても普遍的で、正論だ。
そのいちいちに私は納得し、そうそうそうなんだよね、と頷いている。
だって、私自身の経験を通して感じてきたことや、発見したこと、定義づけたことなどが、
彼の小説の中に、いっぱいちりばめられているんだもの(と、私は勝手に感じている)。
改めて、偉大な作家の、その魔法のような表現力に圧倒され、感動するとともに、
今の私の気持ちをぴしゃりと言い当てるかのような言葉の数々に、
ちょっとした縁というか、「出逢った感」を感じずにはいられないのです(おそらく、世界中の
多くの人が彼の小説を読んで、私と同じような気持ちになっているのでしょうけれども)。

しかも今回発見だったのは、ハルキって、麻薬みたいにクセになるのね。
言葉の魔力というのも、もちろんある。彼にしかできない表現というのがあって、
まあ、そういう、誰もが感じているけど言葉になかなかできない感覚を、
まるで難しい公式をひょいっといとも簡単に解くかのように、
適切な、そして読者が気持ちよくなるような言葉に落とし込めるのが
一流の作家ってものなんだろうけど、個人的にはそれだけではなくて、
彼の小説を読むことで得られる、ある「感覚」というのがあり、
一冊読み終えると、またその「感覚」が欲しくなって、
別の一冊が読みたくなって仕方がなくなるのだ。
でも正直にいうと、その「感覚」というのは決して楽しいものばかりではなく、
むしろ切なく、胸を締めつけられるような感覚で、私自身、向き合うのがつらい部分でもある。
なぜならそれは、私に言わせれば、人間なら誰しもが潜在的に抱えている
途方もないくらいの孤独感であり、誰にもどうにもできない動かしがたい事実であり、
しかしそれを噛み締めたうえで日々、自分なりの発見をしながら前を向いて生きていくことの
大切さであるからではないかと思うのです。なにかとてもヘビィだけれどね、でもそう思うの。

唯一、複雑に思う点を挙げると、私が共感する多くの部分は、
彼の小説の中に出てくる「男性が考えていること」である、ということだ。
つまり、私はほとんど男性の視点で物語を捉え、男性に感情移入しているということ。
女性に関していえば、以前よりも理解できる部分が多くなっているとはいえ、
まだまだ好きになれない部分が多い。この「好きになれない」というのは、
実際に存在したら、まず友達にはならないだろうと思うタイプである、という意味。
でも男性についていえば、概して好きなタイプだ。
これって何かとても暗示的な気がして、複雑。
ほかのハルキ読者の女性って、どうなんだろう。

ともあれ、ハルキと今、出会ったことにとても感動してしまったので、
今さらながらファンレターでも書こうかと真剣に考えている次第です。
だってそうそうないもん、こんな出会い。
そして思うのは、もしかして今「ノルウェーの森」を読んだら、
やはりピンときてしまうんだろうか。ということである。
そのうち試してみようと思いますが、ちょっと怖いような気もする。

最後にもう一度、ハルキとリュウを引き合いに出すと、
私にとっては、リュウ=the Rolling Stones、ハルキ=the Beatles、かと。
若い頃、私は断然ストーンズのほうが好きだったけど、あるときビートルズのすごさに開眼した。
一度ビートルズをちゃんと聴くと、その普遍性のなかにある奥深さと、
実はものすごくヤバい、中毒的な何かがあることに気づくのです。
しかもハルキって、ふとしたときに、ものすごくポップだったりもするんだよね、
あんなふうに見えてさ。そのへんもすごくうまいなあ、と思うんだけど。
やっぱり彼はビートルズだ。

by satoritti | 2007-09-05 09:24 | book

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